と思った。
これは青春ごっこだ、と気付いてしまうほどに僕らは大人になった。別れがこわくない。科学にも後押しされている。お金を払えばいつでも会えるし、料金を気にせずに電話ができるし、タイムラインで僕と君の今日がわかるだろう。
インターネットをはじめてから、久しぶりな気がしないね、って言われすぎてしまった。僕の昨日になってしまった日々は全部ここにある。
でも、会わなきゃいけないなと思う。久しぶりな気がしないね、って言うために会わなきゃなと思う。アプリのバージョンを更新するみたいに。自動でインストールされない類の感情がある気がする。会おうね。
虹が出ている気がして外に出た。見上げると、すごい土砂降りだったはずなのに、何事もなかったかのような顔をした空だった。電車は1分遅れでやってきた。
車窓から進行方向を覗き込んだら、どす黒い雨雲が見えた。きみが次の土砂降りになるのか。悲しみが終わった後に、今度こそは当たり前みたいな顔をするなよ、と思う。悲しいときはちゃんと悲しくなりたい。
いつも乗っている電車からは、通っていた高校、つまり青春だった場所が、建物と建物の間から少しだけ見える。そこでは今、顔も名前も知らない人たちが本物の青春をしている。同じ入れ物の中に、全然違う人たちが全然違う笑い方をしていることに、もうすっかり慣れてしまった。電車の速度に合わせて、少しだけ校舎を眺める。
虹が見えた気がした。
通り過ぎてしまった今は確かめようがない。それは虹だったのか。それは青春だったのか。それは恋だったのか。
けれど、思い込むことはできるんじゃないだろうか。僕たちはいつでも、今日を昨日にする過程で魔法をかけられるのだから。31文字の魔法を教えてくれた君に感謝したい。
僕は僕の魔法を信じることにして、雨が降らなくなったこの街で生きよう。
虹がなくたって雨だった。恋じゃなくたって愛だった。 模倣の魔法で青春そのものになった日々たちを、隠し持っていた二人だけの合図や冗談を、この街の端と端に埋めてさよならを言う。