1994年生まれの僕は、紛れもなくポケモン直撃世代と言える。
いや、正確に言うと直撃はしていない。物心ついた頃にはポケモンがあった。初代ポケモンの(赤・緑版だ)発売は1996年。つまり2歳。当然リアルタイムではやっていない。
そんな僕のポケモンとの出会いは金・銀およびクリスタル版である。1999年販売。ちょうど幼稚園から小学校に上がるくらい。個人差はあれど、1994年生まれの僕らはだいたい金・銀版の舞台であるジョウト地方や出現するポケモンを非常に良く愛している。一番最初に出会ったポケモンだから。
僕は個体値やら孵化やらに全く興味が持てなかった代わりに、純粋にポケモンのストーリーやキャラクターを愛することが出来た。図鑑を埋めることもせず、殿堂入りを数回し飽きてやめるようなライト層だったからこそ、手持ちのポケモンに名前を付けて可愛がり、エンジュジムの見えない床に泣かされ、ふと現れたライコウに熱狂し、いかりのみずうみの手前のゲートで通行料を払わされ、海を渡って薬を取りに行けと命令するミカンにブチ切れ、「こおりのぬけみち」の困難さに涙し、チャンピオンのワタルに幾度か屈し、カントー地方に行けることが分かった時には震え上がるほどに感動した。
上で分かる通り、幼少期のポケモン体験の話をするのが僕は好きだ。というかシンプルにポケモンが好きだ。そして、同い年の人達であればほとんどの人がポケモンの話で盛り上がる。
10代の頃、親密になった女の子の気を引くために、僕はよくこんな質問をしていた。
「どのポケモンが一番好き?」
大抵はピカチュウだったり、ミズゴロウだったり、その他の可愛いとされるポケモンを答えてくれたりする。そうなるとやることは決まってくる。然るべきタイミングで近くのおもちゃ屋やらポケモンセンターやらに行って、そのキャラクターのぬいぐるみか何かを買い求める。分かりやすい。家にポケモンのぬいぐるみがある幸福を、僕はよく知っている。
高校生の時に好きだった女の子がいた。例によって僕はあの質問をした。そして、彼女が指名したモンスターに、僕の策略は瀕死状態にさせられたのだった。
「ノコッチが好き」
言われた瞬間にそのモンスターの姿形を思い浮かべることができなかったし、思い浮かべたところで近所のショッピングモールに同じ姿をしたぬいぐるみがあるとは到底思えなかった。一応探したけど。
だって皆さん、ノコッチですよ。
まずあいつは何タイプなんですか。ノーマルらしいですけど、どこがノーマルなんですか。アブノーマルすぎやしませんか。図鑑を見たら「たかさ:1.5m」って書いてある。デカイ。思った数倍はデカイ。あの姿で1.5mあるの、現実にいたらドン引いてしまう。
今でこそ特性やらのおかげで少しは光が当たっているノコッチであるけれど、金・銀時代はまず出現しないし、捕まえたとしてもすぐボックス送りにしていたし、まずかっこよくもかわいくもないし、全く意識していないポケモンだった。バクフーンで即焼却しているはずだ。焼いてもノコッチは美味しくないだろうな。
ノコッチが好きだった女の子はそれ以外でも強烈なインパクトをたくさん残してくれたし、非常に面白くて好きだったのだけれど、一番覚えているのはこのエピソードになる。だから彼女のことをノコッチガールと心の中で命名した。もはや彼女のことを思い出すと、先にノコッチが浮かぶし、そのあと人の顔を描こうとしてもノコッチ似の少女が出来上がるし、もはやあの子はノコッチだったのかもしれない。
未だに僕は、ポケモンのぬいぐるみ売り場でノコッチを探している。
調べたらあった。買わない。