みんな大好き唐揚げの次は、みんな大好きハンバーグかあ
お盆休み。埼玉から弟が、盛岡から僕が、それぞれ仙台にある実家に帰る。家族4人が揃うのは久しぶりだ。兄弟共に長いこと実家暮らしだったので、急に2人ともいなくなってしまって両親は寂しいだろうなと思う。時々はバラバラに実家に顔を出したり、両親が兄弟それぞれの住まいに遊びに来たり、といったことはあった。けれどもバラバラで会っていたときに比べて、4人揃ったときの空気感が圧倒的に「家族」で、それだけでたまらなくなる。当たり前に4人で過ごしていたことが考えられなくなるほど、家族全員が揃うことが暮らしではなくてひとつのイベントになったのだと悟った。
弟が煙草を吸うようになり、家族の中で非喫煙者は自分だけになった。皆がベランダで煙草を吸っている中、自分は皿を洗ったり本を読んだりして過ごした。それは決して疎ましいものではなくて、むしろ心地良かった。同じ空間にいられるだけで、あとは誰かが寝ていようと、YouTubeを見ていようと、なんでも良かった。普段そこにいないからこそ、そこにいるということが大事で、そのことになんとなく気が付いていたのか、弟も僕もお盆期間は全く出掛けずにずっと家にいた。
弟が麻雀をはじめたというので、家族で麻雀をすることになった。実家にはなぜか麻雀マットと麻雀牌があって、自分が小さいときには友達の親たちが集まって麻雀をやっていた記憶があるのだが、それは25年くらい前のことである。およそ四半世紀ぶりに陽の目を見た麻雀牌たちがかき混ぜられ、並べられていく。誰もはっきりと口にするわけではないが、本当に楽しかったし、幸福な時間だった。麻雀は深夜まで続いた。ずっと揃わなかったものが揃うとうれしくて、また揃うときまでそれぞれ何かを手に入れたり与えたり失ったりしていく。
2日目の夜に母の作った唐揚げを食べた。2泊で帰ろうと思ったが、弟がもう1日いるというので3泊することにした。3日目の夜は母がハンバーグを作った。父が、
「みんな大好き唐揚げの次は、みんな大好きハンバーグかあ」
と呟いた。あまりにも幸福そうなその言葉に不意を突かれて泣きそうになった。
弟の帰りの新幹線の時間に合わせて、一緒に駅まで送ってもらうことにした。息子2人を送り届けたあと、両親は精米所に行くという。イベントが終わって暮らしがまた始まる。離れ離れは寂しいことばかりではなくて、集まったときの喜びをきちんと持っていられるなら悪くないかもしれない。盛岡に向かう高速バスに揺られ、僕もまた暮らしに戻っていく。