そこが海ではないとして

This is the meaning of my life.

Probe

 

友人から急に電話がかかってきて2時間ほど話した。ほんとうに今更だけれど、電話はすごい。何百キロ離れている相手が発する音声が届くのである。会いに行こうとすれば何時間もかかるものを。さらにLINESkypeの力を借りれば、その尊き体験はなんと無料だ。

嬉しいことに、自分へ電話をかけてくれる相手が何人かいる。どうしてかはわからないけれど、何か月かに一回、突然かかって来ることがある。僕はそういう日をいつも待ち望んでいる。友人と電話をしている夜の時間はいつだって、時間が止まったかのように神秘的だと思う。

夜の電話とは想像の連続である。相手が投げかけた言葉の真意。電話をかけてきた理由。相手の表情。欲しい言葉。様々なことを思い浮かべながら、相手が笑ってくれるちょうどいいエピソードを探っていくあの感じが好きだ。想像の余白が多くなるほどに、僕は深く集中をし、全身のアンテナを張り巡らせて、受話器の向こう側にいる友人のことを考える。

電話は難しい。相手が笑ってくれるちょうどいいエピソードが見つからないことがある。大切な言葉が電波の揺らぎに振り落とされて相手に届かないことがある。たったひとつの言葉で相手を傷つけてしまうことがある。そうして、二度と僕のもとに電話がかかってこないことがある。

 だからこそ、友人からまた電話がかかってくるあの瞬間が何よりうれしい。自分に存在価値があるのだと実感する。そこから広がる宇宙みたいな余白。小型探査機の僕が何を見つけられるか。彼方で燃え尽きて、誰かの世界の塵になってしまわぬように。