天使は間抜けな顔をして
「世界一長いエスカレーターに乗れたら死んでもいいな」
「じゃあそのエスカレーターの行き先が天国でもいいってこと?」
「乗ってる途中で気が変わってしまったら地獄だな」
「天国行きなのに?」
「途中で、ああ、最後にフライドチキンが食べたい、とか思うかもしれない」
「天国にケンタッキーがあるかもしれないよ」
「カーネル・サンダースが揚げてくれるってわけか」
「天国って死んだ生き物しかいないのかな」
「そうだと思う、生きた人間がいるはずがない」
「どうしよう、そしたらフライドチキン食べられないじゃん」
「どういうこと?」
「生きた鶏がいないから」
「死んでる鶏を捕まえて、揚げるのかも」
「美味しくなさそう」
「なにも生まれない卵を産む鶏がいてさ」
「そもそも殺せないんじゃない?死んでるから」
「でも食べるものに困るだろ」
「死んでるから食べなくていいんだよ」
「そしたら、お刺身とかもないね、天国には」
「お刺身ないなら天国行きたくないな」
「エスカレーターに乗る前に気付いてよかった」
「それにしてもエスカレーターに乗ってる人間の姿って間抜けだよね」
「どういうこと?」
「止まってるのに動いてるのがさ」
「それなら電車とかバスもそうじゃない?」
「うーん。なんか、エスカレーターが一番間抜け。ぼーっと立ってる感じが」
「天国行きにはふさわしい乗り物だね」
「永遠にのぼりのエスカレーターがあってさ」
「どこに?」
「わからない。どこかにあるの」
「乗りたいな」
「みんなそれを探すために生きてる」
「見つけた人から乗ってる?」
「うん、みんなうれしそうに、ぼーっと乗ってる」
「そのエスカレーター、長い?」
「ちょー長いよ」