そこが海ではないとして

This is the meaning of my life.

忘れた

 

いろんなことを忘れた。

 

石原都知事が出馬表明をしたニュースを見ていたことを忘れない。母と弟と共に必死に支えたテレビを忘れない。あらゆるものが全部棚から落ちてしまった部屋を忘れない。一斉に外に出てきたマンションの住人の不安そうな顔を忘れない。急に降り出した雪を忘れない。なんにもできないまま暗くなっていく街を忘れない。バイトには行かなかったけれど何にも言われなかったことを忘れない。帰ってこない父を3人で待った夕方の不安な気持ちを忘れない。数時間かけて職場から歩いて帰ってきた父の顔を忘れない。あの日の星が人生で一番綺麗だったことを忘れない。鍋で炊いたご飯の焦げたところのおいしさを忘れない。別々の部屋で寝ていた家族がその間だけ同じ場所で眠ったことを忘れない。朝起きても部屋はぐちゃぐちゃのままだったことを忘れない。街は思ったよりもいつも通りで拍子抜けしたことを忘れない。いつ電気がつくかなって呑気に考えていたことを忘れない。でも海には近付けない臆病さを忘れない。あの時は本当に何にも知らなかったということを忘れない。犠牲者の数が一気に百人単位になった時のラジオパーソナリティの声を忘れない。その時思い浮かべた荒浜の様子を忘れない。怯えて眠れなかった3月12日を忘れない。蝋燭の火の心細さを忘れない。ガソリンスタンドに何時間も並んだことを忘れない。マンションの住人が持っていた発電機の石油臭さを忘れない。集会所ではじめて見た津波の映像を忘れない。炎で赤く染まる気仙沼を忘れない。救いが欲しくなって小説ばかり読んでいたことを忘れない。流星ワゴンを読んで泣いたことを忘れない。アルバイト先のマクドナルドで分けてもらったバンズの美味しさを忘れない。肉はもうダメになっちゃったから分けられないよと言っていた店長の顔を忘れない。亘理に住んでいた友人とのメールのやり取りを忘れない。1人だけ連絡がつかなかった海沿いに住む女の子のことをずっと考えていたことを忘れない。その女の子と遊ぶ約束をしていた3月14日になっても連絡が取れなかったことを忘れない。お返しを渡せなかったホワイトデーのことを忘れない。弟とスーパーに並んだことを忘れない。買いすぎちゃったカップラーメンのことを忘れない。変な形のポリバケツに水を汲んでマンションの階段を上がったことを忘れない。街のほうは電気が復旧してきたのにうちは暗いままだったことを忘れない。4日経ってやっと沿岸へ自転車で向かったことを忘れない。景色がモノクロに見えたことを忘れない。進むのが怖くて大声で歌いながら全力でペダルを漕いだことを忘れない。大きな水たまりに突っ込んだことを忘れない。閖上でここがどこだかわからなくなったことを忘れない。海沿いの景色を見てすべての記憶が書き換えられるように思ったことを忘れない。農業高校で飼われていた豚が高校から遠く離れた道端で死んでいたことを忘れない。牛は生きていたことを忘れない。全部曲がっていた電信柱を忘れない。堤防の上に立つと右と左で景色が全く違っていたことを忘れない。大好きだった海の見える公園はなくなってしまったことを忘れない。仙台空港からバイパスへ向かう道を逃げるように走ったことを忘れない。あんなに世界を憎いと思った3月15日を忘れない。その日の帰りに4日ぶり女の子の安否を知らせるメールが届いたことを忘れない。集会所で泣いたことを忘れない。光がだんだんと迫ってくるのをマンションの最上階から見たことを忘れない。電気は今日中に復旧するらしいとみんなが言っていたことを忘れない。光が名取川を越えたときの眩しさを忘れない。うちにも光が来てマンションの住人たちとうわーっって叫んだことを忘れない。光と同時に水もきたことを忘れない。水も電気で汲みあげるタイプのマンションだと初めて知ったことを忘れない。トイレから水が出るだけでこんなに興奮するのかと思ったことを忘れない。これが人生の全部だと思った3月15日を忘れない。あの日書いた詩を忘れない。その時やっていたケータイサイトでみんな優しくしてくれたことを忘れない。県内で一番最初に営業を開始したマクドナルドで作ったハンバーガーの匂いを忘れない。仕事が終わって食べた久しぶりのハンバーガーの美味しさを忘れない。向かいのガソリンスタンドの長蛇の列を忘れない。ハンバーガーやってるの、やってます、の会話を忘れない。数時間だけの営業でハンバーガーとチーズバーガーしか売らなかったことを忘れない。数日後にフィレオフィッシュが追加されたことを忘れない。道が全部うねってしまった長町商店街を忘れない。出来たばかりのTSUTAYAが閉店したことを忘れない。レンジとオーブンが使えるだけで豊かになった食を忘れない。少しずつ元通りになっていくものとならないものがあったことを忘れない。半月ぶりの登校日にみんなと会ったときの嬉しさを忘れない。やっと渡せたホワイトデーを忘れない。空いてるお店が少なくて必死に探したお菓子を忘れない。何かしたいという気持ちとは裏腹に何にもできなかった自分の無力さのことを忘れない。自分の生活だけで精一杯だったことを忘れない。安置所になったボウリング場を忘れない。瓦礫置き場になった公園を忘れない。4月最初の登校日の前日の夜に大きな地震が来たことを忘れない。部屋があの日と全く同じようにぐちゃぐちゃになったことを忘れない。電気が消えた時のことを忘れない。また最初からやり直しかよって思って深く絶望したことを忘れない。登校日は延期になったことを忘れない。本当に辛くなったのはこのあたりだったことを忘れない。一夜明けて電気がついたときの安堵を忘れない。登校日のあとにクラス発表があってそのあとにデートをしたことを忘れない。街のいたるところにある工事現場を眺めるだけになったデートを忘れない。タワレコに行って視聴したamazarashiのアノミーの衝撃を忘れない。どうにもならなくなって安久公園で自転車を止めて書き殴った文章を忘れない。

 

本当にいろんなことを忘れたね。日記もどっかいっちゃった。君が絶たれたと思った未来の割にはうまくやっているほうだと思うけれど、未だにあの時ぜんぶ奪われたような気がしている。16歳だった僕は。

 

 

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