そこが海ではないとして

This is the meaning of my life.

花を買う/書き換え

 

生まれて初めて花を買った。小さな花屋に入って、予算と用途とイメージを伝えて、花のことは何にもわからないけれどとにかくかわいいものを、とお願いすると、男の店員さんはわかりました、とだけ言って、店先にばらばらに並んでいる花たちを少しずつ選んで花束にしてくれた。その所作がなんだかとても美しかった。花が花単体として綺麗なのは知っていたけれど、花束になっていく過程がこんなに尊くて神秘的だとは思わなかった。

好きな男の人から花をもらったの、はじめて!と彼女は言った。それが嘘だということを僕は知っている。前に彼女が教えてくれた。かつて男からもらった花が仏花だったことがあると。笑い話だと思って聞いていたけれど、当事者になってみると全然笑えないだろうなと思った。

誰かが背負った悲しみや不具合を笑えるようになるために生きているわけではないけれど、結果としてそうなればいいか、くらいの気持ちでいる。日々は更新されていく。僕の不具合も誰かがアップデートしてくれればいい。僕がかつて傷付けた人たちをもう僕では癒せないことがわかっている。僕が仏花を買わないことが何の意味を持たないまま誰かの記憶をこっそり書き換えてしまえばいい。

それにしても、花、いいな。どうして今まで知らなかったんだろう。別にいいか。これからたくさん知っていけばいい。人生はきっと長い。何度も花を買おう。何度も書き換えていこう。

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