だらしないスーパーにはだらしない生鮮食品が並んでいる。全く買う気がしないね、と彼女は笑った。最寄りの店がこうだとわかってたら引っ越さなかったのに、などと言いながら、彼女はレトルト食品を買い物かごに詰めてレジへ向かう。
そのまま彼女の部屋に入る。玄関とベッドしか無いような部屋だ。買ったものを冷蔵庫に入れるでもなく、夕食の準備をするでもなく、そのまま倒れこむようにベッドへ向かった。この部屋もまた、僕たちにはぴったりの空間だった。
「川のつもりでいたのに、いつの間にか海にいたみたいだよね、わたしたち」
潜り込んだ毛布の中で彼女が言った。彼女が何を考えているか、正確なところはまったくわからない。海なのか川なのか毛布なのか、答え合わせをしないまま漂っている。そもそも魚であるかすら、自分ではわかっていないんじゃないだろうか。そしていつの間にか網にかかり、だらしないスーパーで誰かに引き取ってもらうのを待つのだろう。値引きのシールを何度も貼り付けられて、自分の価値を見失ってしまう。
「海のつもりだったのに、海でもないかもしれないよ」
「じゃあどこだと思う?」
僕は何も言わずに、眠ったふりをする。
「そこがどこだかわかんなくても、泳ぐしかないと思うよ。泳がないと死ぬみたいなものなんだから」
彼女は僕にとっての海だった。この部屋も、この毛布も、彼女自身も、全部が僕を飲み込んでいる。