そこが海ではないとして

This is the meaning of my life.

虚構・フィクション

愛す

靴の先端が濡れている。 接触を封じられたら、ひたすらに言葉を空中に放るしかなく、その言葉がどこに落ちようと、誰を傷付けようと、僕は責任を持つこともしないのだった。幾多の街が滅びようと、僕の届けようのない思いが、現在のあなたに墜落することを祈…

一石を投じる

梅雨前の、春とも夏とも言えない生温い空気を季節外れの半袖と自転車で掻っ切って、週6回・休憩込み12時間を過ごすいつもの場所に向かう。信号のパターンを読んで、あえて手前の角で曲がり、その先の歩行者専用道路を走り抜ける。出勤20分前まで家で寝ていて…

だらしない海のなか

だらしないスーパーにはだらしない生鮮食品が並んでいる。全く買う気がしないね、と彼女は笑った。最寄りの店がこうだとわかってたら引っ越さなかったのに、などと言いながら、彼女はレトルト食品を買い物かごに詰めてレジへ向かう。 そのまま彼女の部屋に入…

ハイライト

スタバでもドトールでも、タリーズでもベローチェでもない、けれどもどうやらチェーン店らしいカフェに、藤岡さんと入った。藤岡さんは1番大きなサイズのアイスコーヒーを頼んでいた。 「そんなにたくさん飲んだらお腹壊しませんか」 「豆がね」 「えっ」 「…

中心を忘れるほどに黒く塗り潰してしまえ俺の青春

「とりあえず必死に勉強してたけどセンター試験のセンターって何?」あまりにも今更すぎる、と言いかけて口を噤んだ。あれ、なんだっけ。「調べてよ」「おう任せとけ」 僕たちは大学四年の冬を迎える。分厚くて赤くて重いあの本の表紙に書かれた名前の場所は…

ご本人登場

「いやいやいや、誰なんですかあなたは」「ご本人です。あなたの、ご本人」 僕の「ご本人」を名乗る何者かが現れたのは、部屋でサイダーを飲んでいる時だった。男はあまりにも堂々と僕の部屋に入ってきて、半分だけ残っていたサイダーを勢いよく飲み干した。…